品質計画は、プロジェクトおよびプロダクトの品質要求事項をまたは品質標準、あるいはその両方を定めて、プロジェクトでそれを順守するための方法を文書化するプロセスです。
品質計画は、他のプロジェクト計画プロセスと並行して実行すべきです。
インプット
スコープ・ベースライン
- スコープ記述書
プロジェクトの記述、主要な要素成果物、受入基準が記載されています。プロジェクトの品質コストは受入基準の規定によって増加したり減少したりします。 - WBS
要素成果物、ワークパッケージおよびプロジェクト・パフォーマンスの測定に使用するコントロール・アカウントを特定するために使用します。 - WBS辞書
WBS要素の技術情報が定義されています。
ステークホルダー登録簿
ステークホルダー登録簿は、品質について特別な利害関係や影響力をもつステークホルダーを特定するために利用します。
コスト・パフォーマンス・ベースライン
コスト・パフォーマンスの測定に適用される時間軸に関する情報が記載されています。
スケジュール・ベースライン
開始日や終了日などの合意されたスケジュール・パフォーマンス測定の基準に関する情報が記載されています。
リスク登録簿
品質要求事項に影響をもたらす脅威や好機に関する情報が記載されています。
組織体の環境要因
品質計画に影響を及ぼす組織体の環境要因には以下のようなものがあります。
- 政府機関による規則
- 適用分やに特有の規則、標準、ガイドライン
- プロジェクトの品質に影響を及ぼすプロジェクトや成果物の作業条件や運用条件
規則と標準について
規則と標準の考え方は以下の通りです。
- 規則
政府などが定める法令や通達などのことで、一般的に強制力がある - 標準
業界団体などが定めるルールやガイドラインなどであり、一般的に強制力はなし
組織のプロセス資産
品質計画に影響を及ぼす組織のプロセス資産には以下のようなものがあります。
- 組織の品質の方針、手順、ガイドライン
- 過去のデータベース
- 過去のプロジェクトからの教訓
- 品質方針
これは、品質に関して母体組織が意図する方向性を示したもので、経営者層が承認することが多いです。成果物に関する母体組織の品質方針は、プロジェクトにおいてもそのまま適用されることが多いです。母体組織が公式な品質方針をもたない場合、または複数の母体組織がプロジェクトに関わる場合、プロジェクトマネジメントチームはそのプロジェクトのために品質方針を設定する必要があります。
ツールと技法
費用便益分析
品質に対する要求事項を満たすことに寄る主要な便益には、手直しの減少、生産性の向上、コストの低下、ステークホルダーの満足度の向上等があります。
個々の品質活動に関するビジネス・ケースでは、品質活動にかかるコストとそれにより期待出来る便益を比較します。
品質コスト(COQ)
品質コスト(COQ)とは、要求事項への不整合を予防したり、プロダクトやサービスが要求事項に適合したかどうかを評価したり、要求事項への不適合の結果として発生する手直しを行ったりすることで、成果物の生成から廃棄までに発生するコストの総額を意味しています。
品質コストは適合コストと不適合コスト(不良コストや品質不良コストとも呼ばれます)に分けられます。
品質コストはさらに予防コストと評価コストに分けられます。
不良コストはさらに内部コストと外部コストに分けることができます。
内部コストとは、顧客の手に渡る前に発見された欠陥に対応するためのコストで、手直しまたは廃棄のために必要になるコストです。
外部コストは、顧客の手に渡った後に発見された欠陥に対応するためのコストで、リコールやクレーム対応のために必要になるコストです。
以上をまとめると以下のようになります。
- 適合コスト
- 予防コスト
- 評価コスト
- 不適合コスト
- 内部コスト
- 外部コスト
管理図
管理図はプロセスが安定しているかどうか、あるいはパフォーマンスが予測されたものであるかどうかを判断するために使用されます。
管理図では、仕様の上限と下限を契約の要求事項に基づいて設定し、規定範囲を外れた場合には、何らかのペナルティが伴います。
この上限と下限をそれぞれ、「上方管理限界」と「下方管理限界」と呼びます。繰り返しのあるプロセスでは、管理限界は通常±3σで設定されます。
正常値の例
異常値がある例
σとは、標準偏差のことで、平均値からのばらつきを表します。
- ±1σ
±1σの区間に入る確率は68% - ±2σ
±2σの区間に入る確率は95% - ±3σ
±3σの区間に入る確率は99%
プロジェクト・タイム・マネジメントとプロジェクト・コスト・マネジメントで説明した、三点見積りでは以下の公式で標準偏差を算出することができます。
三点見積りによる所要期間(期待値)= (楽観値+4×最頻値+悲観値)/ 6
標準偏差(σ) = (楽観値 – 悲観値) / 6
Rule of Seven(7点連鎖)の考え方
管理図の管理限界の考え方には、Rule of Seven(7点連鎖)という考え方があり、仮に管理限界の範囲内に収まっても、7つの点が連続して同じ傾向にあればそのプロセスは異常であると見なします。
これは、同じ傾向が7点連続で起こる確率は0.5の7乗という確率になり、稀な事象であるという考えに基づいています。
Rule of Seven(7点連鎖)の例
ベンチマーク
ベンチマークとは、実施中または計画中のプロジェクトの実務慣行を類似性の高い他のプロジェクトと比較することにより、ベスト・プラクティスを特定したり、改善策を考えたり、パフォーマンスの測定基準を設けたりすることです。
比較対象となるプロジェクトは、母体組織の内部であったり、外部であったり、適用分野が同じであったり異なったりします。
実験計画法(DOE)
実験計画法は、開発中あるいは生産中のプロダクトやプロセスの特定の変数にどの要因が影響を与えるか特定する統計的手法になります。
実験計画法は、テストの回数や種類、およびそれらが及ぼす品質コストへの影響を判断するために、品質計画プロセスで使用します。
さらに実験計画法は、プロダクトやプロセスを最適化する役割も果たします。実験計画法は、環境や製造上の差異に起因する変動要因に対して生じるプロダクトのパフォーマンスへの影響を減少させるために使用することができます。
実験計画法の優れている点は、要因を1つずつ変化させるのではなくて、重要な要因すべてを体系的に変化させるという統計的な枠組みを提供する点にあります。実験データの分析を行うことで、結果に影響を与える要因を浮き出させて、要因間の相互作用の存在と要因間の相乗効果を明らかにすることで、プロダクトとプロセスの最適な条件を得ることができます。
統計的サンプリング
統計的サンプリングは、検査対象の母集団からランダムに一部を抽出することです。
例えば、100枚の図面からランダムに10枚選び出すようなことを言います。
品質コストに含めてテストの回数や予想される廃棄等を考慮に入れるなど、サンプリングの頻度やサンプルの大きさは品質計画プロセスにおいて決める必要があります。
フローチャート化
フローチャートはプロセスを図示したもので、プロセス内のステップ間の関係を示します。フローチャートの様式はさまざまありますが、プロセスのフローチャートはどの場合も、アクティビティ、決定ポイント、実施手順を示します。
特定の品質管理手法
シックスシグマやリーンシックスシグマ、品質機能展開、CMMI等、数多くの手法が存在します。ただし、これらの手法を推奨したり、すべての手法を網羅するものではありません。
ここでは、PMBOKで紹介されている4つの手法について簡単に紹介しておきます。
- シックスシグマ
各種の統計分析や品質管理手法を体系的に使用して、製品製造やサービス提供に関連するプロセス上の欠陥を識別・除去することにより、業務オペレーションのパフォーマンスを測定・改善する厳格で規律ある経営改善方法論です。 - リーンシックスシグマ
ムダを排除して業務効率の向上を図るリーン生産方式と、作業のバラツキを制御して高品質なビジネスプロセスの確立を目指すシックスシグマを組み合わせたマネジメント手法で、リーンシグマとも呼びます。 - 品質機能展開
製品およびサービスに対する顧客の要求条件を明確にして理解し、次にそれらの要求条件を満たす製品およびサービスを開発して提供するための仕様に変換するための体系的な手法です。 - CMMI
CMMIは「能力成熟度モデル統合」とも呼ばれて、組織がプロセス改善を行うためのガイドラインとなるものです。
その他の品質計画ツール
PMBOKでは、その他の品質計画ツールとして以下のツールを紹介しています。
- ブレーンストーミング
5.1 要求事項収集で紹介した手法です。 - 親和図
親和図とは、問題解決技法の1つで、類似性に基づいたグループを視覚的に表示するために使用します。 - フォース・フィールド分析
変化に対して賛成と反対の勢力を図で示す手法です。 - ノミナル・グループ技法
5.1 要求事項収集で紹介した手法です。 - マトリックス・ダイアグラム
マトリックス・ダイアグラムは、2つ、3つまたは4つの情報グループからなり、要因、原因、目標の関係を表示するのに使われます。マトリックスのデータは行と列に区分され、交差するセルには行や列に相対する項目の実証したい関係を説明する情報を記載します。 - 優先順位マトリックス
多岐にわたる問題や課題を重要度順に格付けする手法です。
アウトプット
品質マネジメント計画書
品質マネジメント計画書には、プロジェクトマネジメント・チームが母体組織の品質方針を実行する方法を記述します。
品質マネジメント計画書は、包括的なプロジェクトマネジメント計画書へのインプットで、これにはプロジェクトの品質管理、品質保証および継続的なプロセス改善の取り組みを含めます。
品質マネジメント計画書は、公式/非公式、詳細/概要など多様で、スタイルや詳細はプロジェクトの要求事項に応じて決められます。意思決定が正確な情報に基づいて行われていることを確認するために、プロジェクトの初期段階で品質マネジメント計画書をレビューすべきであるとPMBOKには記載されています。
プロジェクト品質マネジメントでは、この「品質マネジメント計画書」と、後述する「プロセス改善計画書」の2つの補助計画書を作成します。
品質尺度
品質尺度は、プロダクトまたはプロダクト属性が何であるか、そして品質管理プロセスにおいてそれをどのように測定するかについて具体的に記載した運用基準になります。また、測定とは、実際の値を測定することで、品質尺度の許容される差異は、許容度として定義されます。
品質尺度は、品質保証プロセスと品質管理プロセスで使用されます。
品質チェックリスト
品質チェックリストは、一連のステップが実行されたことを確認するために用いられる構造化されたツールです。
多くの組織では、頻繁に実行される作業に対して作業の一貫性を保つために標準化されたチェックリストを用意しています。
品質チェックリストは、品質管理プロセスで使用します。
プロセス改善計画書
プロセス改善計画書は、プロジェクトマネジメント計画書の補助の計画書です。
プロセス改善計画書は、プロセスの価値を高めるアクティビティを特定するために行うプロセス分析の手順を詳しく記述します。記述対象として考慮すべき項目には以下のようなものがあります。
- プロセス境界
- プロセス・コンフィグレーション
- プロセス尺度
- パフォーマンス改善目標
プロジェクト文書更新版
更新される文書には以下のようなものがあります。
- ステークホルダー登録簿
- 責任分担マトリックス