定量的リスク分析は、特定したリスクがプロジェクト目標全体に与える影響を数量的に分析するプロセスです。
定性的リスク分析プロセスによって高い優先順位を付けられたリスクは、プロジェクトの競合する要求に麿在的にも実質的にも影響を与えるため、定量的リスク分析を実施します。
定量的リスク分析のプロセスでは、これらのリスク事象の影響を分析し、またこれらのリスクに対して個別に数値による等級付けを行ったり、プロジェクトに影響を与えるすべてのリスクの総合的な影響を評価したりします。これは、不確実な状況下で意思決定を行う際の定量化によるアプローチでもあります。
定量的リスク分析は、通常、定性的リスク分析プロセスの後に行いますが、効果的なリスク対応策の策定という観点からは必ず必要とされるものではありません。
時間と予算の有無、およびリスクとその影響に関する定性的または定量的分析の結果の必要性等を勘案して、個々のプロジェクトで使用する分析方法を決めます。プロジエクト・リスクが全体として満足すべきレベルまで減少したかを判断するために、定量的リスク分析は、リスク対応計画の後だけでなく、リスクの監視・コントロールの中でも繰り返し行うべきです。傾向を判断することによって、リスク・マネジメントの活動をさらに行う必要があるかどうかが決まります。
インプット
リスク登録簿
11.2 リスク特定のアウトプットで、定性的リスク分楯プロセスで得られた追加の情報が反映されています。
リスク・マネジメント計画書
11.1 リスク・マネジメント計画のアウトプットです。
コスト・マネジメント計画書
コスト・マネジメント計画書では、プロジェクト・コストの計画、構成、見積り、予算化、コントロールの形式を定めて、予算またはコスト計画の定量的な分析のための構造や適用方法を規定する際に役立ちます。
スケジュール・マネジメント計画書
スケジュール・マネジメント計画書では、プロジェクト・スケジュールの作成とコントロールに関する形式を定めて、スケジュールの定量的な分析のための構造や適用方法を規定する際に役立ちます。
組織のプロセス資産
影響を与える組織のプロセス資産には、以下のようなものがあります。
- 過去のプロジェクトで類似した完了済みのプロジェクトの情報
- リスク専門家による類似プロジェクトの調査結果
- 業界団体や特定の情報源から得られるリスクのデータベース
ツールと技法
データ収集・表現技法
インタビュー
インタビューでは、プロジェクト目標に対するリスクの発生確率と影響度を定量化するために、経験と過去のデータを引き出します。必要とする情報は、適用する確率分布のタイプによって決まります。よく使われる分布としては、三点見積りがあります。
三点見積りは、6.4 アクティビティ所要期間見積りで紹介している通り、最頻値、楽観値、悲観値という3つのシナリオについて情報を収集します。
また、分析の信頼性と信憑性を確保するために、リスク変動幅に関する根拠および前提条件を文書化することは、リスク・インタビューの重要な役割です。
確率分布
連続確率分布は、モデル化やシミュレーションで広く使用され、アクティビティの所用期間やプロジェクト構成要素のコストなどの値における不確実性を表します。
PMBOKでは、広く使用されている連続分布の例として、以下の2つが紹介されています。
これらの連続確率分布は、一般に定量的リスク分析の際に作成されるデータと相似した形状を示しています。
定量的リスク分析とモデル化の技法
一般に使用される技法には、以下のような事象指向とプロジェクト指向の分析によるアプローチがあります。
感度分析
感度分析は、どのリスクがプロジェクトに最も影響を及ぼす可能性があるかを明らかにするために役立ちます。感度分析では、他のすべての不確実な要素をベースライン値に固定した状態で、プロジェクトの個々の不確定要素が、検討対象の目標に与える影響の度合いを調べます。
感度分析の代表的な表示方法としてトルネード図があります。トルネード図は、不確実性が高い変数と低い変数との間の相対的な重要度と影響度を比較するのに役立ちます。
トルネード図は、不確実性の変数の高い順に並べて図示する手法です。
期待金額価値分析(EMV)
期待金額価値分析(EMV)は、将来発生するかどうかわからないシナリオについて、平均的な結果を算出するための統計的な考え方(不確実な条件での分析)です。EMVは、デシジョン・ソリー分析と組み合わせて、よく使用されます。
期待金額価値分析(EMV)には、リスク回避でもリスク志向でもない、リスク中立の前提が必要です。プロジェクトのEMVは、以下の計算式で求められます。
EMV = Σ(起こりうる数値 × 発生確率)
モデル化とシミュレーション
プロジェクトのシミュレーションでは、プロジェクトの詳細レベルで特定した不確実性をプロジェクト目標に対する潜在的影響という形に変換するモデルを用います。
反復シミュレーションでは、一般にモンテカルロ法を用います。シミュレーションでは、ランダムに選択した入力値(コスト見積り、アクティビティ所要期間など)を使用し、変数の確率分布に基づいた反復計算としてプロジェクト・モデルを何度も繰り返して計算する。このことで、1つの確率分布が得られます。
コスト見積りの範囲に関する三点見積りのシミュレーション結果例は以下の通りです。
コスト500万円で収まる確率は10%しかなくて、それを70%に引き上げるには700万円の予算が必要で、700 – 500 = 200万円のコンティンジェンシー予備費を準備しておく必要があることがわかります。
専門家の判断
コストやスケジュールヘの潜在的な影響を特定し、発生確率を評価し、ツールヘのインプット(確率分布など)を定義するには、専門家の判断が必要になります。
また専門家の判断は、データの解釈にも関わります。専門家にはツールの短所と長所を識別できる能力が求められ、組織の能力と文化を考慮して、ツールの適切/不適切の判断を求める場合があります。
アウトプット
リスク登録簿更新版
リスク登録簿に、定量的分析のアプローチやアウトプット、提言等を記述します。更新版には、主に以下のような要素が含まれます。
プロジェクトの確率的解析
見積りは、可能性の高いプロジエクトのスケジ ュールとコストの結果からなり、完了予定日と予定コストをそれらの信頼性レベルとともに記載します。通常、このアウトプツトは累積分布として表現して、ステークホルダーのリスク許容度とあわせて使用することにより、コストと所要期間に関するコンティンジェンシー予備の定量化が可能となります。
コンティンジェンシー予備とは、定義したプロジェクト目標を達成できないリスクを組織が許容可能なレベルにまで低減するために必要となるものです。
コストとスケジュールの目標の達成確率
プロジェクトが直面しているリスクについて、定量的リスク分析の結果を用いて、現在の計画においてプロジェクト目標を達成する確率を見積もることができます。
定量化したリスクの優先順位リスト
リスクの優先順位リストには、プロジェクトに最大の脅威を及ぼすリスクや、最大の好機をもたらすリスクを記載します。また、コスト・コンティンジャンシーに最大の影響を与える可能性のあるリスクやクリティカル・パスに最も影響を与えそうなリスクもまれます。
定量化リスク分析結果の傾向
分析を繰り返すことにより傾向が明らかになり、リスク対応に影響を及ぼす結論が得られる場合があります。プロジェクトのスケジュール、コスト、品質、パフォーマンスに関する知識の過去の情報は、定量的リスク分析プロセスを通して得られた新たな知見を範囲します。