コミュニケーション計画は、プロジェクトのステークホルダーが求める情報を定め、コミュニケーションヘの取り組み方を定義するプロセスです。
コミュニケーション計画プロセスは、たとえば、誰が、いつ、どのような 情報を必要とするか、またその情報を誰が、どのように提供するかなどのステークホルダーの情報ニーズやコミュニケーション・ニーズに対応します。
どのプロジェクトにおいてもプロジェクト情報を伝える必要性は変わらないが、情報の内容に対するニーズとその伝達方法はプロジェクトごとに大きく異なります。
ステークホルダーの情報ニーズを特定し、そのニーズを満たす方法を決定することは、プロジェクトを成功させるための重要な要素です。
不適切なコミュニケーシヨン計画を策定することは以下のような問題につながります。
- メッセージの伝達を遅らせる
- 取り扱いに注意が必要な情報を間違った人に伝達する
- 必要なステークホルダーの一部に意思を伝えない
「効果的」なコミュニケーションとは、適切な形式で適切な時に適切な影響をもった情報を伝えることを意味しています。
「効率的」なコミュニケーションとは、必要な情報のみを伝えることを意味しています。
ほとんどのプロジェクトでは、コミュニケーション計画は、プロジェクトマジメント計画書の作成時などのような極めて早い時期に行います。これにより、時間や予算などの適切な資源をコミュニケーション活動に割り当てることができます。プロジェクトの全期間を通して定期的に見直しを行い、必要に応じて修正することによって、コミュニケーション計画を継続的に適用していくことができます。
組織構造はプロジェクトのコミュニケーションに対する要求事項に大きな影響をもつので、コミュニケーション計画プロセスは組織体の環境要因と緊密に関係します。
インプット
ステークホルダー登録簿
10.1 ステークホルダー特定のアウトプットです。
ステークホルダー・マネジメント戦略
10.1 ステークホルダー特定のアウトプットです。
組織体の環境要因
コミュニケーションはプロジェクト環境に対応しなければならないので、組織体の環境要因のすべては、このプロセスのインプットに利用されます。
組織のプロセス資産
組織のプロセス資産のすべてがコミュニケーション計画プロセスのインプットとして使用されます。
この中でも、コミュニケーションの課題に関して下された以前の意思決定の理由、および以前の類似プロジェクトにおける意思決定の結果に関する見識が得られるため、教訓と過去の情報は特に重要です。
ツールと技法
コミュニケーションに対する要求事項の分析
コミュニケーションに関する要求事項の分析によって、ステークホルダーの情報ニーズを確定します。これらの要求事項は、必要な情報の価値分析とともに その情報の種別と様式の組み合わせで決定します。
プロジェクトの成功に寄与する情報を伝達すること、およびコミュニケーション不足がプロジェクトの失敗につながる恐れがある場合にのみ、プロジェクトの資源を投入します。
コミュニケーション計画の要点は、誰と誰との間で情報を伝達するのか、また誰がその情報を受け取るのかを決定し、その制約を設けることにあります。
コミュニケーションの複雑さの指標
PMBOKでは、コミュニケーションの複雑さの指標として、予想されるコミュニケーション・チャネルや経路の総数を考慮すべきと記載してあります。
コミュニケーション・チャネルの総数は以下の式で表すことができます。
コミュニケーション・チャネルの総数 = n(n – 1) / 2
n:ステークホルダーの人数
ステークホルダーが20人いるプロジェクトの場合は、20(20 – 1) / 2 = 190のコミュニケーション・チャネルが発生することになります。
コミュニケーションの要求事項の特定に必要な情報
コミュニケーションの要求事項の特定に必要な情報として以下のようなものがあります。
- 組織図
- プロジェクト組織とステークホルダーとの責任関係
- プロジェクトに関係する専門分野、部門、特殊技能
- プロジェクトヘの参加者数、所在地といったロジスティックスに関する事項
- 内部の情報ニーズ(組織内のコミュニケーションなど)
- 外部の情報ニーズ(契約者とのコミュニケーションなど)
- ステークホルダー登録簿およびステークホルダー・マネジメント戦略からのステークホルダー情報
コミュニケーション技術
プロジェクト・ステークホルダー間で情報をやり取りする手段は、極めて多岐にわたります。たとえば、プロジェクトマネジメント・チームは、簡単な打合せから大規模な会議に至るまで、または簡単な手書きメモ書きからオンランインでアクセス可能な資料 (例:スケジュールやデータベース)までの技法をコミュニケーション手段として用いることができます。
プロジェクトに影響を及ぼす要素として以下のようなものがあります。
- 情報ニーズの緊急度
プロジェクトの成功は、更新頻度の高い情報を直ちに入手できることに依存するのか、あるいは定期的な書面による報告で十分なのか。 - 技術の可用性
既存システムは適切か、あるいはプロジェクトのユーズに対応した変更が必要か。たとえば、想定したステークホルダーは選択したコミュニケーション技術を使えるか。 - 予定されたプロジェクト要員の配属
予定しているコミュニケーション・システムは、プロジエクト参加者の経験や専門知識に合致しているか、あるいは教育や訓練が必要か。 - プロジェクト期間
現在利用できる技術は、プロジェクトが終了するまでに変わりそうか。 - プロジェクト環境
チームは対面で作業するのか、バーチャルな環境で作業するのか。
コミュニケーション・モデル
プロジェクト・コミュニケーションを議論する際には、コミュニケーション・モデルの構成要素を考慮する必要があります。
以下にコミュニケーション・モデルの構成要素を記載します。
- ノイズ
メッセージの伝達や理解を妨げる要素(距離や不慣れな技術など) - 解読
メッセージを、意味のある思考やアイデアに戻すこと - コード化
思考やアイデアを他者が理解できる言語に翻訳すること - メッセージとフィードバック
コード化のアウトプット - 媒体
メッセージの伝達を使用する手段
コミュニケーション・モデルは、送信者と受信者の間で、情報がどのように受け渡されるかを示しています。
このモデルで特徴的なのは、メッセージの受取りを確認するという行動です。受取りの確認とは、受信者がメッセージを受け取ったことを通知することであり、必ずしもメッセージヘの同意を意味するわけではないことです。
もう1つの行動がメッセージヘの応答です。これは受信者がメッセージを解読し、理解して 、返信することを意味します 。
コミュニケーション・プロセスの一部として、送信者には受信者が正しく受け取れるように情報を明確かつ完全なものにする責任、およびそれが正しく理解されたことを確認する責任があります。
受信者には、情報を完全な形で受け取ること、正しく理解すること、受け取ったことを通知することなどを確実に行う責任があります。
コミュニケーション手段
プロジェクトのステークホルダー間で情報を共有するには、いくつかのコミュニケーション手段が使われますが、これらは以下のように大別できます。
プロジェクト・マネジャーは、コミュニケーションの要求事項に基づき、いつ、どのようなコミュニケーション方法で、どのように使用するかを決定します。
- 相互型コミュニケーション
2人以上の当事者間で、複数方向に情報が交わされるコミュニケーション手段です。特定の議題に関し参加者全員が共通の理解をするのに最も効率的な方法で、会議、電話、テレビ会議などがこれに含まれます。 - プッシュ型コミュニケーション
その情報を知る必要がある特定の受信者に送信するコミュニケーション手段です。情報は確実に配布されますが、それが実際に意図した相手に届いたか、また理解されたかは保証されません。プッシュ型コミュニケーションには、手紙、メモ、報告書、電子メール、ファックス、留守番電話、プレス・リリースなどが含まれます。 - プル型コミュニケーション
情報量が大量であったり、受け手の人数が非常に多かったりする際に使用されて、受信者が自分の意思で情報にアクセスする 必要があるコミュニケーション手段です。この方法には、イントラネット、eラーニング、ナレッジ・リポジトリなどが含まれます。
アウトプット
コミュニケーション・マネジメント計画書
コミュニケーション・マネジメント計画書は、プロジェクトマネジメント計画書に含まれるか、プロジェクトマネジメント計画書の補助の計画書の形をとります。
通常、コミュニケーション・マネジメント計画書には以下のような内容を記述します。
- コミュニケーションに関するステークホルダーの要求事項
- 伝達すべき情報、言語、書式、内容、詳細度など
- その情報を配布する理由
- 必要な情報を配布する時期と頻度
- 情報伝達の責任者
- 機密情報の伝達を認可する責任者
- 情報を受信する人またはグループ
- 情報伝達の手段や技術(メモや電子メールなど)
- コミュニケーション活動に割り当てる資源(時間や予算など)
- エスカレーション・プロセス
下位レベルでは解決できない課題をどのくらいの期間で、どのマネジメント経路を通して上位者へ持ち上げていくかを明確に します。 - プロジェクトの進捗に伴って、コミュニケーション・マネジメント計画書を更新し、洗練する方法。
- 共通用語集
- プロジェクトにおける情報の流れを表したフローチャート、想定した認可手順のワークフロー、報告書のリスト、会議の予定など
- コミュニケーションの制約条件
通常、特定の法規や規制、技術、組織の方針などで決まります。
コミュニケーション・マネジメント計画書には、プロジェクトの状況確認会議や、プロジェクト・チーム会議、電子会議、電子メールで使用するガイドラインやテンプレートを含めることもあります。また、プロジェクトでウェブサイトやプロジェクトマネジメント・ソフトウェアを使用する場合は、それらの仕様を含めることもあります。
プロジェクト文書更新版
更新される文書には、以下のようなものがあります。
- プロジェクト・スケジュール
- ステークホルダー登録簿
- ステークホルダー・マネジメント戦略