池谷 裕二氏 講演会メモ
脳科学者である前にストーリテラーだわこの人。
夕学五十講という慶應MCCが主催する講演会に、脳科学者の池谷 裕二氏が登壇するということで参加してみました。
朝日新聞出版 (2016–03–18)
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「未来の脳を考える」
私たちの判断や感情は無意識の世界に支配されています。つまり、無意識のカラクリを知っておくことは、よく生きることに直結します。当日は脳のしくみやヒトの感覚世界、そして近年成長著しい人工知能とヒトの脳の未来について考えたいと思います。
via:『夕学五十講』講師紹介ページ
以下参加メモです。
人類の高齢化
高年齢化に向けて、日本の未来を考えていきたい。
日本人の平均寿命は男性が80歳、女性が87歳だが、実はこの平均寿命には意味が無い。なぜなら不慮の事故や病気などで若く亡くなる人が平均寿命を下げていて、半分以上の人は平均寿命以上に生きるから。
大事なのは「中央値」。中央値とは「日本人の平均寿命まで生きられる確率」のことで、日本の女性の中央値は90歳。この数値は昔の医療技術で90年生きるということ。今の医療技術だと、2007年に生まれた子供の中央値は107歳という研究結果が出ている。
ソース:Human Mortality Database, University of California, Berkeley (USA) and Max Planck Institute for Demographic Research (Germany). Available at www.mortality.org
脳で脳を考えるおもしろさ
気が利くと気が利かないの差とは?
自分が気が利く人なのか、気が利かない人なのかは当人は知ることができない。なぜなら、正しいか間違っているかは「自分の常識=自分が生きている基準」だから。
脳に伝わる各種センサーについて
そもそも人が世界を見ることができるのは目があるから。でも目だけでは「見えない」。様々な実験から、実際に運動経験をしないと「見える」状態にはならない。まったく運動させなかったサルは「見え」ることができなかった。
人によって色の感じ方も違う。「赤」といっても人によって赤の色は変わる。目の色を感じるセンサーは中央にしかないため、視野の隅は色を感じることができない。でも実際には視野全体に色を感じている。それは目から伝わった情報に脳が補完しているから。景色が非常になめらかに見えるのも実際には脳が補完しているから。つまり実際に感じている色は「幻覚」なのである。
人間の目に備わっている色のセンサーは赤、緑、青の三原色。目から脳に伝わる情報はこの三原色が伝わり、脳で色を混ぜることで様々な色を再現させている。生き物の中でもっとも色のセンサーが多いのがシャコで12種類。しかし実験してみると、シャコは白黒でしか見えていないことが分かった。これは、脳の中で色を混ぜることができないため、実際には白黒でしか見えていない。
つまりこの世界は脳の解釈によってできている。
進化しすぎた脳
人の目は可視光線しか見えない。紫外線や赤外線は見ることができない。逆に鳥や虫は紫外線を見ることができる。鳥が見えて人には見えない理由は、紫外線を見るためのセンサーが人には無いため。もし紫外線や赤外線を見ることが出来れば、その情報が脳に伝わって識別することができる。つまり、脳の能力は身体の状態で制限されている。
過去の実験で磁場センサーをネズミの脳に取り付けたところ、すぐに磁場センサーを活用してエサを見つけることができた。つまり脳は進化しているが身体が追いついていない、「進化しすぎた脳」だということ。
2045年 シンギュラリティ問題
シンギュラリティ(Singularity)とは、人工知能が人間の能力を超えることで起こる出来事のこと。人類が人工知能と融合し、人類の進化が特異点(成長曲線が無限大になる点)に到達することのことで、それは2045年に起こるとレイ・カーツワイル氏が提唱している。
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そうなると、仕事を45%がAIに奪われてしまうとも言われている。
日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に | 野村総合研究所(NRI)
執筆や作曲、画家などのクリエイティブな仕事は人にしか出来ないと思われがちだが、これらは既にAIを使って人以上の成果を出してきている。その他にも、「カウンセリング」「気遣い」「気が利く」ような仕事も人よりもAIの方が優れていると言われている。
ではいったい人にしかできないことは何だろうか?
今まではサルと人を比べていれば良かったが、これからはAIと人を比べる時代がやってくる。
2017年は量子コンピュータ元年
2017年は量子コンピュータ元年と言われている。量子コンピュータは組み合わせ計算が得意なので、囲碁や将棋、チェスなどの組み合わせを計算するゲームが得意。
すでに人工知能の内部の計算はもはや人間が理解出来ないほどに複雑になっている。もし、人工知能の能力を上げるために、人が人工知能をカスタマイズしようとした場合、それは改悪であり逆に性能を奪う結果になる。つまり、人はコンピュータにとってウイルスになるだろう。今後、人工知能のカスタマイズは人工知能が行う時代がやってくる。これこそがシンギュラリティ。しかしAIが人を支配する時代がくるかというとそんなことはないと思っている。なぜなら人にとってシンギュラリティが生じたら、それは困ることであり、人工知能は無用の長物になるから。
AIは本当にすごいのか?
人工知能の中でも最近注目されている「ディープラーニング」の原理は、人の脳と同じ「ニューラルネットワーク」という考え方。ニューラルネットワークは、複数の入力データを受け取って出力を行う単純な関数が、複雑に繋がりあった形をとっている。人間の脳も単純なニューロンの組み合わせによって高度な認識・思考を行っている。
人工知能という言葉だけだと「何か凄そう」と思うけど、中身は実は対したことはやっていない。
この世に脳は必要なのか?
地球上の生物の中で、脳を持っている生き物は全体の0.13%しかいない。脳を持っていると、脳を動かすために沢山のエネルギーも必要になるし、脳を持っていない生き物の方が実ははるかに快適だったりする。ではなぜ人は脳を持ったのか?
これは、「なぜ宇宙に生命が存在するのか」という話に通じる。