10.5 実績報告
実績報告は、状況報告、進捗測定、予測などのパフォーマンス情報を収集して、配布するプロセスです。
プロジェクトの進捗とパフォーマンス、さらにプロジェクトの結果の予測の理解と伝達を確実に行うために、実績報告プロセスではベースラインと実績データとの比較を定期的に収集し、分析を行います。
実績報告書では、受け手ごとに適したレベルの情報を提供する必要があります。形式は単純な報告書から詳細な報告書まで幅があります。
- 単純な状況報告書
単純な状況報告書には、出来高パーセントや、分野別の状況表示(スコープやスケジュール、コスト、品質など)などのパフォーマンス情報情報を表示します。 - 詳細な状況報告書
詳細な状況報告書には、以下の情報が含まれます。- 過去のパフオーマンスの分析
- リスクと課題の現状
- 報告期間内に完了した作業
- 次の報告期間に完了予定の作業
- 報告期間内に承認された変更の要約
- レビューや検討すべきその他の関連情報
完全な報告書とするためには、プロジェクト完了時の予測(期間とコストを含む)を含めるべきです。完全な報告書は、定期的に作成する場合も例外的に作成する場合もあります。
インプット
プロジェクトマネジメント計画書
プロジェクトマネジメント計画書には、プロジェクト・ベースラインに関する情報が記載されています 。 パフォーマンス測定ベースラインは、マネジメント上のコントロールのためにプロジェクトの実行状況と比較し、逸脱を測定する基準として用いられます。
作業パフォーマンス情報
以下の項目を利用します。
- 要素成果物の状況
- スケジュールの進捗
- 発生したコスト
作業パフォーマンス測定結果
作業パフォーマンス測定結果は、進捗に関する実績と計画を比較するために、プロジェクト・アクティビティの指標を評価するときに使用します。評価指標には以下のようなものがあります。
- スケジュール・パフォーマンスの計画と実績の比較
- コスト・パフォーマンスの計画と実績の比較
- 技術パフォーマンスの計画と実績の比較
予算の予測
コスト・コントロール・プロセスからの予算の予測情報では、残余作業に必要となる追加資金の予測およびプロジェクト作業全体の完成に必要な資金の見積りが提示される。
組織のプロセス資産
実績報告プロセスに影響を与える組織のプロセス資産には以下のようなものがあります。
- 報告書テンプレート
- 使用する測定値や指標を定義した方針や手順
- 組織で定めた差異の限度
ツールと技法
差異分析
差異分析とは、ベースラインと実績との違いの発生原因を事後に調べることです。差異分析の実行プロセスは、適用分野、使用する標準、業種によって異なります。
共通する手順については以下に示します。
- 収集した情報の品質を検証する。収集した情報の品質には漏れがなく、過去のデータと一貫性があり、他の
プロジェクトや状況に関する情報と比較して信頼できる情報であることを確認します。 - 差異を明確にする。実績の情報をプロジェクト・ベースラインと比較し、プロジェクトの成果にとって望ましい差異と望ましくない差異を併せて記録します。
- プロジェクトのコストやスケジュール、およびその他の分野 (例 :品質パフォーマンス調整、スコープ変更など)において生じた差異の影響を特定します。
予測手法
予測とは、当該日までの実際のパフォーマンスをもとに、将来のプロジェクトのパフォーマンスを予見する手法です。
予測手法は、以下のように分類出来ます。
- 時系列法
時系列法は、将来の成果の見積り基準として過去のデータを使用する手法です。時系列法には、アーンド・バリュー、移動平均、外挿法、線形予測、トレンド推定、成長曲線などがあります。 - 因果分析と計量経済学的手法
予測手法のなかには、予測対象の変数に影響を与える可能性のある基本的な要因を特定することが可能であるという前提に基づいた予測手法があります。たとえば、傘の売上は天候に関連するなど、原因が分かれば影響を与える変数の予測ができ、それを予測に使用する手法です。この分類に含まれる手法には、線形回帰または非線形回帰を用いた回帰分析、自己回帰移動平均
(ARMA)、 計量経済学などがあります。 - 判定方式
判定方式による予測とは、直感的な判断、意見、確率評価などを取り入れる手法です。この分類に含まれる手法には、複合予測、アンケート、デルファイ法、シナリオ構築法、テクノロジー予測、類推による予測などがあります。 - その他の手法
その他の手法としては、シミュレーション、確率的予測、アンサンブル予測などがあります。
コミュニケーション手段
プロジェクトの進捗やパフォーマンスに関する情報を収集し、分析するために状況レビュー会議を利用します。プロジェクト・マネジャーが実績報告を配布する際には、プ ツシュ型コミュニケーション手段を採用するのが一般的です。
報告システム
報告システムでは、プロジェクト・マネジャーが、プロジェクトのコスト、スケジュールの進捗、パフォーマンスに関する情報を取得し、保管し、ステークホルダーに配布するためにツールを使います。プロジェクト・マネジャーはソフトウェア・パッケージを使用することで、複数のシステムからの報告を取りまとめ、ステークホルダーヘの報告書の配布を容易に行うことができます。 配布する様式の例としては、表形式での報告、スプレッドシート分析の表示、プロジェクト形式などがあります。
アウトプット
実績報告書
実績報告書では、収集した情報の整理と要約を行い、パフォーマンス測定のベースラインと比較した分析結果を提示します。実績報告書では、コミュニケーション・マネジメント計画書の記載に従って、さまざまなステークホルダーが求まる詳細度で、状況や進捗情報を提供します。
実績報告書の一般的な形式としては、バー・チャート、Sカーブ、ヒスト・グラム、表などがあります。また、実績報告書の一部として、差異分析、アーンド・バリュー分析、予測などが含まれることが多いです。
組織のプロセス資産更新版
更新されるプロセス資産には以下のようなものがあります。
- 報告書の様式
- 教訓文書
教訓文書には、課題の原因、是正処置の選択理由、実績報告に関するその他の種類の教訓が含まれます。
変更要求
プロジェクト・パフォーマンスを分析することで、変更要求が発生することが多いです。これらの変更要求は、統合変更管理プロセスを通して以下のように処理されます。
- 提案された是正処置には、将来予測されるパフォーマンスをプロジェクトマネジメント計画書に沿ったものにするための変更が含まれます。
- 提案された予防処置によって、将来のプロジェクト・パフォーマンスが悪くなる確率を低くすることができる変更が含まれます。